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トラベルドクター株式会社の取組み 東京都大田区大森中2-15-7
医師がつくった旅行会社─命の重さに寄り添う“もう一度の旅”を実現する取り組み
旅行医 伊藤玲哉医師
旅行医 伊藤玲哉医師
医師が立ち上げた旅行会社「トラベルドクター」は、病気や介護の事情で旅行をあきらめていた人たちに「安心して旅する機会」を届けることを目的に、2020年12月24日に開業しました。
医師、看護師、介護士など医療・介護の専門性が高いスタッフが同行し、介護タクシーを含む移動手段で行程のすべてをサポートします。「重症度を理由に旅行を断らない」という理念のもと、重い病気を抱える方でも安心・安全・快適に旅を楽しんでもらう環境づくりに取り組んでいます。同社の代表取締役であり旅行医である伊藤玲哉医師にお話を伺いました。
旅行医 伊藤玲哉医師
旅行医 伊藤玲哉医師
「医療の限界」を越えて―旅行を“叶える”という選択
伊藤医師は、自身が臨床で感じた無力感と医療の限界から事業を始めたといいます。治療が叶わない患者に接する中で、「医師である自分に何ができるか」を問い続けた結果、「旅」という選択肢が持つ意味に着目しました。
「治療で救えないからといって、人と人との関係がそこで終わるわけではない。診察の場で患者さんから『先生、旅行に行きたい』と言われることがありました。最初は『いつか行けたらいいですね』と流してしまったこともありましたが、それで終わらせていいのか、と自問自答しました。」
旅行を断る理由として多く聞かれるのは「何かあったら危険だから」という漠然とした不安です。伊藤医師は、その「何か」を医師の知識で可視化し管理することで、患者の望みを実現できるのではないかと考えました。「医療」と「旅行」、双方の知見が結びついていない現状に対し、「その隙間を埋める存在」になろうと立ち上げたのがトラベルドクターです。
医療現場で見つかった課題―「願いを聞く耳」の欠如
旅行をしたい願いをかなえる福祉車両
旅行をしたい願いをかなえる福祉車両
トラベルドクターの活動を通して見えてきた問題の一つは、医療従事者が患者の「旅行をしたい」という願いに耳を傾けないことでした。「危ないからやめたほうがいい、と医療側が言うと、患者さんは旅行に行ってはいけないと感じてしまいます。
病気だけを診ると、旅行は悪化のリスクに見えてしまいますが、患者さん個人を見れば『いま旅行をしたい理由』が見えてきます。『病気を見る人、病人を見ろ(病気を診ずして病人を診ろ)』という言葉がありますが、人生の文脈を理解する医療者がもっと必要です。」
主治医のリスク評価と患者の希望が対立したとき、その溝を埋める役割を果たすのが「旅行医(トラベルドクター)」です。移動手段や宿泊環境、医療対応の体制を具体的に説明することで、主治医の不安を解消し、旅行の可否を判断する材料を提供しています。
旅行をしたい願いをかなえる福祉車両
旅行をしたい願いをかなえる福祉車両
情報収集や体制づくりの重要性
安全な宿泊先や移動手段を確保するには、現場での地道な調査が必要です。宿泊施設が提供する情報が限られているため、トラベルドクターは時間をかけて情報を収集し、場合によっては下見を行って情報の格差を解消する努力を続けています。
「宿泊施設のバリアフリー情報や医療的配慮の可否といったアクセシブルな情報が少ない。そこで私たちが現地を確認し、安全に旅ができるかを精査します。」こうした情報収集と体制づくりは手間がかかりますが、安心して旅を実現するためには不可欠だと伊藤医師は言います。
医師同行の柔軟な判断と今後の展望
旅行専門の医療チームが行きたい願いを支える
旅行専門の医療チームが行きたい願いを支える
旅行の夢をかなえる中で、すべての方に医師の同行が必要というわけではありません。むしろ、準備段階で医療面のサポートを受けられる体制が広がっていくことが大切だと感じています。今後は、現場での経験を重ねながら、同行の必要性を見極めつつ、より柔軟な支援体制を整えていきたいと考えています。
また、このような活動ができる医師はまだ限られていますが、各地に「旅行医(トラベルドクター)」が増え、安全で安心できる旅を支えられる仕組みを築いていければと思います。
私は「医療の心を忘れない」ことを大切にしながら、これからも医師としての経験を生かし、医療と旅行をつなぐトラベルドクターとして、「もう一度旅をしたい」という方々の思いに寄り添っていきたいと考えています。
旅行専門の医療チームが行きたい願いを支える
旅行専門の医療チームが行きたい願いを支える






