お探しの情報はこちらから検索できます

閉じる ✖
POINT!

川は鑑賞の対象にとどまらず、実際に入り体験できる自然環境。
川は『見るだけの資源』ではなく、『参加できる観光資源』といえます。秋川渓谷のような河原・水辺の自然は、障害のある方や高齢の方にとって「足元が不安定で近づきにくい場所」と捉えられがちですが、補助機材と運営手順、そして現場の小さな工夫を組み合わせることで、安心して“楽しめる場所”へと変わります。
河原の砂利や段差といった壁を減らせれば、清流の涼やかさ、せせらぎ、風、匂いといった五感の魅力に加え、川釣りやSUPなどの水上アクティビティまで、誰もが同じフィールドで共有できます。
この「危険で近づきにくい」から「安心して参加できる」への価値転換こそ、ユニバーサルツーリズムが持つ本質的な力です。
事業者にとっても、“鑑賞”から“参加”へ価値を転換でき、介助者や同行者と共に過ごせる体験価値の提供につながります。新たな顧客層の開拓や商品造成の幅が広がるほか、地域事業者との連携や受け入れ体制の構築にも寄与するなど、観光事業としての可能性を大きく広げます。
実施時のポイント
・アクセス:車いす利用者が安全に移動できるよう、集合場所から河原までの導線を確認します。砂利の深さ、段差、傾斜、狭い区間の有無、足元の安定性など、安全性と快適性を左右する要因を丁寧に把握します。 ・滞在スペース:水際でも安定して過ごせる場所を選定します。椅子を置く場合は転倒しにくい地面か、流れが強い場所や増水の恐れがないかを確認します。 ・更衣・休憩:長時間の滞在を想定し、日陰や休憩できる場所を確保します。濡れた後に体が冷えないよう、タオルや防寒・保温の考え方も事前に整理します(季節・気温に応じた調整が重要です)。 ・トイレ:車いす利用者が使用可能なトイレの有無と位置を把握します。場所の有無だけでなく、「利用可能な状態か」「導線が安全か」を含めて確認します。 ・水辺の安全管理:川では流れの速さ・水深・天候変化が安全性に大きく影響します。実施可否の判断ラインを明確にし、参加者一人ひとりの状態に応じて体験内容を調整します。 ・緊急時への備え:転倒や体調不良に備え、連絡体制と対応手順を共有します。救急車両の進入可否、最寄り医療機関までの導線も事前確認が必要です。 運用のコツ
導線は「受付→ブリーフィング→河原移動→体験(チェアリング/釣り/SUP)→撤収→着替え・休憩→解散」まで地図化し、砂利・段差・斜度・狭隘部などのリスクを事前に洗い出します。
設備不足時は、導線の組み替え(安定した地面のルート選択)や、補助機材の組み合わせ、休憩ポイントの追加などで補います。
また当日は、気象条件だけでなく川の状況(水量・流速)に応じて、体験時間の調整をすること、1名の障害者や高齢者に対して複数名で対応することで安全と快適性の両立を図ります。運営側は押し手・引き手・横支え・安全監督など役割分担を明確にし、“全員が同じ前提で動ける状態”をつくることが重要です。

誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業
秋川渓谷自然体験
(チェアリング&川釣り&SUP体験)
モニターツアー&ワークショップ

東京都では、障害者や高齢者等が東京の自然を安心して楽しめる「誰もが楽しめる自然体験型観光」を推進しています。
令和7年9月10日にあきる野市の秋川渓谷で開催した「秋川渓谷自然体験(チェアリング&川釣り&SUP体験)障害者サポート運営体験」では、安全な自然体験を提供するための技術・知識・運営手順を、事業者・参加者が共に学びながら体験しました。

動画

目 次

秋川渓谷自然体験モニターツアーの概要

参加者は障害のある方とその介助者に加え、旅行会社社員や都内で自然体験型学習を提供する事業者など多岐にわたりました。講師には、NPO法人ユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋正巳理事長を迎え、「誰もが安心して参加できる観光」を実現するための考え方や、現場でバリアを一つずつ解消していく重要性について講義が行われ、日帰りの研修形式で実施されました。
会場となったあきる野市・秋川渓谷(秋川橋河川公園周辺)は、都心からのアクセスが良く、河原・水辺・緑地が一体となった自然環境を有しているため、多様な参加者を受け入れやすいフィールドです。車いす利用者や高齢者など移動に配慮が必要な方にとっても、補助機材や導線設計を組み合わせることで参加可能となる条件を整えられる点は重要なポイントです。

モニターツアー参加者の集合写真

学び①:自然体験(アクティビティ)の企画手順(計画→下見→検証)

ユニバーサルツーリズムアドバイザー・渕山知弘氏は、自然体験型観光を企画する際には、「仮説 → 下見 → 検証」の3段階を丁寧に踏むことが不可欠であると強調しています。秋川渓谷自然体験については、前年度にもチェアリングと川釣り体験を企画していました。その際は悪天候により前日に中止しましたが、現地視察の上で入念に準備しておりました。
今回は「大型SUPボートに相応しい椅子を設置すれば、秋川で障害者がSUP体験を楽しむことができる」という仮説を立て、協力事業者(後述)と共に事前の検証を実施しました。他地域ではアウトドア用の車いす(HIPPOcampe)を活用したバリアフリーSUPの事例もありますが、水深が浅い川遊びであれば、背もたれと肘掛付きのローチェア が適しているのではないかと考えました。そして、車いすとソフトタイプの座椅子との3タイプを試しました。車いすは座面が高く不安定(そもそも固定するので車いすである必要はない)、座椅子も固定して座ることはできるが、素材が柔らかいため体幹が弱い障害者は座位が取りにくい。 果たして、座面が低く移乗しやすく、背もたれと肘掛があることから座位が取れ、かつ低いことから安定感もある「キャンプ用肘掛つきローチェア」が相応しく、それを安全に固定することでSUP体験を提供できることを確認しました。

渕山知弘氏が説明をしている様子

学び②:当日の運営フロー(設営→体験→撤収)

当日の運営は、「①ブリーフィング → ②設営 → ③体験 → ④撤収」の流れを踏むことで、安全で再現性の高い自然体験プログラムが実現できます。ブリーフィングでは、天候や水量、危険箇所、参加者の状態、役割分担、緊急時対応を共有し、スタッフ全員が同じ前提で動ける状態をつくります。設営では、駐車場から河原、水辺までの導線を確認し、補助機材の配置や休憩スペースの安全性を整えます。
体験時は、参加者の特性や体調に応じて補助機材や支援方法を選択し、押し手・左右のサポート・安全監督など複数名体制で対応します。川は当日の状況により、水深や流れ、岩や石につくコケの状況により滑り具合等が異なります。障害者や高齢者を誘導するには、複数名で足元の状態を見ながら慎重に行うことが重要です。撤収では、着替えや休憩の導線を確認しつつ、機材の点検・片付けを行い、参加者の体調確認とともに改善点を共有します。渕山氏は、「特別な準備をするのではなく、当日の状況を丁寧に確認し続けることが安全につながる」と述べました。

渕山知弘氏が説明をしている様子

モニターツアーを支えた事業者

【ぼちぼちアドベンチャーすその】
「すその(裾野)=山のふもとの、傾斜のゆるやかな場所」という言葉の通り、「がんばり過ぎずに、ぼちぼちのところで楽しむ」をコンセプトに、奥多摩でカヌーやSUPなどのアウトドアツアーを提供しています。今回は事前準備段階の検証時からご協力いただきました。奥多摩から秋川にSUPボート運搬、肘掛があるローキャンプチェアーを設置し、SUP体験を提供(インストラクターとして実施サポート)いただきました。
【東京山側DMC】
都心から近距離でありながら、山・森林・渓谷・水源など豊かな自然資産を有するエリアを「東京山側」として捉えて、あきる野市をはじめ複数の地域や関係事業者や地域と連携しながら、探究型自然体験学習スクールやアドベンチャートラベルを展開しています。
今回は秋川の伝統的な川釣り体験とチェアリング体験について機材提供とインストラクターとして実施サポートいただきました。
【連携の意義】
事業者が単独で運営するのではなく、現地のアウトドアガイドや地域連携団体、観光事業者などが連携することで、安全管理と体験価値の両立が実現します。河原や水辺という不整地環境では、フィールド知識、運営ノウハウ、商品造成の視点といった各事業者の専門性が補完し合うことが重要であり、この連携体制こそがユニバーサルツーリズムの持続可能性を高める基盤となります。

活用した補助器具と使い方(HIPPOcampe/モビチェア/JINRIKI)
秋川渓谷での自然体験では、河原のような足元が不安定な環境に対応するため、複数の補助器具を組み合わせて活用しました。なお、補助機材の持ち込みや使用の可否は、施設や管理者によって異なるため、事前に確認を行う必要があります。
1)アウトドア用車いす(HIPPOcampe)
砂利や段差のある河原でも安定して移動できる車いすで、川辺までの到達を支援します。事前の下見で走行ルートを確認し、押し手と支え手の役割分担を行うことが重要です。
2)水陸両用車いす モビチェア
河原や水際などの不整地から浅瀬まで、陸上と水上の両方で使用できる水陸両用車いすで、車輪と肘掛けに浮力材を備えているため安定した浮遊力があります。砂利の多い河原から水辺まで一台でサポートでき、介助者が車いすごと押し進めることで、参加者が水面に身体を預ける体験を安全に楽しめます。
使い方のポイントとしては、(1)入水時は複数名体制で支援し、左右どちらかに負荷が偏らないよう支えを配置すること、(2)川の流れや水深、足元の石の状態を必ず確認し、短距離で無理のない範囲で体験を実施することが挙げられます。
3)車いすけん引装置(JINRIKI)
砂利道や緩やかな勾配など押し引きが困難な区間で移動負担を軽減し、安定した進行を支えます。
これらの補助器具を適切に組み合わせることで、駐車場から河原、水辺、そして水上体験に至るまでの安全な導線を構築できることが確認されました。

アウトドア用車いす(HIPPOcampe)

HIPPOcampe

車いすけん引装置(JINRIKI)

JINRIKI

必要な環境整備のポイント

秋川渓谷で自然体験プログラムを実施するには、補助機材の準備だけでなく、環境整備と事前の情報共有が重要です。
・駐車場から河原、水辺までの導線の写真、段差や傾斜の有無、距離、砂利の深さや路面状況などをわかりやすく図解 ・参加者が事前に安全性や移動のイメージを把握できるよう、ウェブサイトや案内資料で情報を公開 ・日陰や休憩スペースの確保、足洗い場や更衣場所の有無、水量や流速の目安など、細かな点を整理して参加者へ案内 このような環境整備は、川辺でのバリアフリー観光における重要な基盤となり、参加者の安心感と参加意欲の向上につながります。

運営の実践(参加者と介助者が共に楽しむ)

導線が整ったら、参加者は介助者やスタッフとともに駐車場から河原へ移動し、アウトドア用車いすや車いすけん引装置、水陸両用車いす(モビチェア)などを活用しながら、安全に川辺の体験エリアへ進みます。
水際では、押し手・左右のサポート・安全監督など複数名体制で支援を行い、川の流れや水深、足元の石の状態を確認しながら慎重にサポートします。椅子を設置して足を水に浸すチェアリングでは、水の冷たさやせせらぎ、風を感じる時間が生まれ、参加者からは「水に触れるだけで気持ちが軽くなる」といった声が聞かれました。
その後、参加者の体調や希望に応じて川釣りやSUP体験へと段階的に進みます。ローチェアを載せた大型SUPへの乗り込みでは、姿勢保持と役割分担を徹底し、ゆっくりと水面を進むことで陸上とは異なる視点から景色を楽しむことができます。こうした段階式の体験を通じて、障害の有無に関わらず自然を共有する時間が生まれ、「またこの場所に来てみたい」という声も聞かれました。

水陸両用車いす(モビチェア)で川に入水している様子

モビチェア

車いすを利用者と視覚障害者が「チェアリング」に挑戦する様子
大型SUPボートで車いす利用者と視覚障害者が「SUP体験」にチャレンジする様子

自然体験プログラム終了後

体験終了後は使用した補助機材を撤収し、足洗いや着替え、休憩のサポートを行います。河原から駐車場や更衣スペースへは複数名体制で安全に移動し、事前に確認していた更衣場所やトイレを利用して着替えを行いました。周囲に車いす対応トイレや休憩できる場所があることで、体験後の動線が無理なく確保されていました。
使用した装備は洗浄・乾燥・点検を行い、次回の実施に備えます。また、体験直後の参加者の声や表情、移動時に生じた課題などを記録・共有することは、次回以降の運営改善につながる重要なプロセスとなります。

【ワークショップ講演】NPO法人ユニバーサルツーリズム総合研究所 長橋 正巳 理事長

長橋理事長は、観光におけるアクセシビリティについて、「物理的な障壁」だけでなく、「移動手段」「情報不足」「環境条件」といった複合的な要素が参加の可否を左右すると説明し、事業者がそれらを正しく理解し、一つずつ解消していく姿勢が重要であると強調しました。
とりわけ講義の中で重要な要素として示されたのが、①情報発信、②補助機材の導入、③環境整備の三点です。情報発信については、交通アクセスやバリアフリー設備の有無、段差、トイレの状況などを事前に明示することの必要性に触れ、「行けるかどうか分からないという不安をなくすことで、参加のハードルは大きく下がる」と述べました。
また補助機材の導入については、アウトドア用車いすやけん引装置などの具体例を挙げ、「これまで諦めざるを得なかった自然体験も、適切な機材によって実現可能になる」と説明。導入コストの課題に対しては、国や自治体の補助制度を活用することで現実的な選択肢となることも示されました。
環境整備の面では、仮設スロープや簡易ベンチの設置といった小さな工夫でも体験のしやすさは大きく変わるとし、「現場スタッフ自身が当事者と同じ行程を歩いてみることが、最も効果的な改善のヒントになる」と実体験に基づく視点の重要性を語りました。設備の有無だけでなく、「実際に安全に利用できる状態かどうか」を基準に整備を進めることが、持続可能なユニバーサルツーリズムの実践につながるとまとめられました。

長橋理事長の講義の様子
長橋理事長の写真

参加者の声

参加者からは体験について、「SUPに乗るのは初めてで新鮮だった」「最初は怖かったが後から楽しくなった」「また川に行きたい」といった率直な感想が聞かれました。親子での参加者からも「親子で同じ体験ができて嬉しい」「清流で遊ぶのは初めてで非常に良い体験だった」との声があり、水辺の自然体験が家族の共通の思い出として心に残る様子がうかがえました。
一方、旅行会社などの実務者からは、運営方法や役割分担、受け入れ体制づくりに関する実践的な議論が交わされ、その後、広報・情報発信のあり方にも話題が及びました。「楽しい体験として積極的に発信したい」「旅行商品として発信してほしい」との意見に加え、「また参加したい」との声も聞かれ、体験が一過性ではなく継続的な関心につながっている様子がうかがえました。
さらに事業者や関係者からは、「継続・収益化が課題」「行政と事業者が課題を共有することが重要」との発言もあり、それぞれの立場での方向性が具体化していく様子が見られました。
今回の研修は、水辺というハードルの高い環境でも、準備や連携、楽しさの伝え方次第で参加の可能性が広がることを実感する機会となりました。体験と議論で得た気づきが、今後の取り組みにどう生かされていくかが期待されます。

モニターツアー参加者の写真
モニターツアーに参加した子供たちの写真

手配に際しての注意点

事前情報共有(参加者の状態・必要な配慮・連絡体制)に加え、駐車場から河原までの移動導線や車両手配、待機場所、緊急時の搬送連携など移動面の確認が重要です。また、トイレや更衣・休憩場所は「有無」だけでなく「安全に利用できる状態か」を事前に把握します。募集ページや案内資料に距離や路面状況、段差の有無などのアクセシビリティ情報を掲載することで、参加者の安心につながります。

秋川河川敷の風景

誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業補助金

自然体験で使用する水陸両用車いすなどは、東京都の補助金制度を利用して導入することが可能です。初期コストを抑えながら安全性の高い体験を提供でき、自然体験型観光への参入に向けた後押しとなります。
詳細:https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/tourism/kakusyu/nature/

これまで “自分たちには難しい” と感じていた取り組みも、正しい準備と連携があれば実現できることが今回のモニターツアーを通じて明らかになりました。
小さな気づきや学びが、地域の自然をより多くの人に開く大きな一歩につながります。
ぜひ皆さまの事業でも、この変化の芽をそのまま次の挑戦へと育てていってください。

記事一覧へ戻る ページの
先頭へ