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POINT!

海は眺めるものではなく、入って遊ぶもの。
海は『見る』だけではなく『体験できる場所』です。バリアフリービーチは、障害のある方や高齢の方だけでなく、介助者や同行者と一緒に自然を体験できる取り組みです。
専用備品と適切なサポート体制を整えることで、「自然体験は難しいのでは?」という不安を解消し、誰もが安全に海の魅力を共有できる旅行商品として展開できます。
海という場所は、障害のある方にとって“危険で近づきにくい場所”と捉えられがちですが、必要な装備と運営手順が整えば、安心して“楽しめる場所”に変わります。この価値転換こそ、ユニバーサルツーリズムが持つ本質的な力です。
事業者にとっても“鑑賞”から“参加”へ価値を転換でき、家族や介助者と共に過ごせる体験価値の提供につながります。新たな顧客層の開拓や商品造成の幅が広がるほか、地域事業者との連携や受け入れ体制の構築にも寄与するなど、観光事業としての可能性も大きく広がります。
実施時のポイント
・アクセス:車いすで安全に移動できるよう、駐車場から砂浜・波打ち際までの導線を確認します。傾斜や段差の有無、日陰の場所、路面の硬さなど、安全性と快適性を左右する要因を丁寧に把握します。 ・シャワー:濡れても使える椅子を準備し、無理のない姿勢で利用できる環境を整えます。手すりの位置や足元の滑りにくさ、タオル置き場なども配慮します。 ・更衣スペース:横になって着替えられる広さを確保し、現地で難しい場合は代替施設を検討します。介助スペースやプライバシー確保もポイントです。ウェットスーツの着替え時は、風よけや日陰の確保、防滑マット等による足元の安全、着脱時間を見込んだ動線確保や保温対策の配慮が必要です。 ・トイレ:車いす対応トイレの有無、位置、利用可能性を把握します。内部の広さ、扉の開閉方向、手すり配置など細部が安全性に直結します。 運用のコツ
導線は「受付→更衣→砂浜→入水→シャワー→更衣→解散」まで地図化し、段差・斜度・路面状況を確認します。設備不足時は近隣の代替施設や仮設スペースの活用も検討します。また、体験当日の気象条件(気温・風・波)に応じて体験時間の調整や休憩をこまめに取り、安全と快適性の両立を図ります。

誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業
八丈島バリアフリービーチとスノーケリング
体験ワークショップ&モニターツアー

東京都では、障害者や高齢者などが自然を安心して楽しめる観光環境整備を進めています。令和7年7月10日・11日に八丈島で開催した「八丈島バリアフリービーチ運営体験ワークショップ」では、安全な自然体験を提供するための技術・知識・運営手順を、事業者・参加者が共に学びながら体験しました。

動画

目 次

八丈島バリアフリービーチの概要

参加者は障害のある方と介助者に加え、旅行会社や自然体験事業者など多岐にわたります。全国でバリアフリービーチを展開する湘南バリアフリーツアーセンターの榊原正博理事長と、八丈島で自然体験ツアーを提供する「しいのき」大類由里子代表を講師に迎え、1泊2日の研修として実施されました。
会場の底土海水浴場は、羽田空港から約1時間とアクセスが良く、海況も比較的安定しているため、多様な参加者を受け入れやすい環境が整っています。高齢者や車いす利用者など移動に配慮が必要な方にとっても参加しやすい条件が揃っていることは重要なポイントです。

バリアフリービーチでのモニターツアー参加者の集合写真

【ワークショップ講演】NPO法人 湘南バリアフリーツアーセンター 榊原 正博 理事長

榊原理事長は、アクセシビリティに関わる「物理的・制度・文化・情報・意識」の4つのバリアを紹介し、自然体験ではこれらを総合的に整備する必要があると強調しました。
とりわけ現場での声かけは重要で、「何かお手伝いしましょうか」「何かお困りですか」「私にできることはありますか」の3ステップが、参加者に安心感を与える基本姿勢として共有されました。
また、運営する事業者は「駐車場→シャワー→更衣→トイレ」の4場面を重点的に準備することで、安全性と快適性の確保につながることが説明されました。

榊原理事長の写真

【ワークショップ講演】八丈島自然ガイドサービスしいのき 大類 由里子 代表

大類氏は、知的障害・視覚障害・聴覚障害・車いす利用者など多様な参加者に対応してきた経験をもとに、海では呼吸・バランス・浮力を適切に支えることが最大の鍵であると解説しました。
参加者ごとの体力・経験・不安の度合いに応じて体験内容を調整すること、気象・海象条件に応じた実施可否判断ラインを明確にしておくことなど、事業者が現場で活かせるノウハウが数多く紹介されました。

大類氏の写真

学び①:自然体験(アクティビティ)の企画手順(計画→下見→検証)

ユニバーサルツーリズムアドバイザー・渕山知弘氏は、自然体験型観光を企画する際には、「仮説 → 下見 → 検証」の3段階を丁寧に踏むことが不可欠であると強調しています。今回の八丈島バリアフリービーチでも、まず「底土海水浴場で実施可能か」という仮説を立て、車いすで砂浜にアプローチできるか、波打ち際までの距離は適切か、トイレ・更衣室・休憩場所が実際に“使える状態”にあるかなどを、下見で細かく確認しました。特に更衣室は階段があるため不適切と判断し、約250m先の底土野営場の更衣室を代替利用することに決定。さらに検証段階では、受付から更衣・入水・シャワーに至る導線、安全に必要な人員配置や役割分担、機材設営の手順、無線・携帯の通信状況などを現場で試行し、所要時間やリスクを洗い出したうえで当日の運営に反映しました。渕山氏によるこの一連の手法は、「設備があるかどうか」ではなく「参加者が安全に使える状態かどうか」を基準に企画を組み立てる重要性を示しており、今後自然体験プログラムを造成する事業者にとって実務的な指針となる学びとなりました。

渕山知弘氏が説明をしている様子

学び②:当日の運営フロー(設営→体験→撤収)

当日の運営は、「①ブリーフィング(約10~20分、天候確認、役割分担、安全共有) → ②設営(約30~60分、アクセスマット敷設、待機・休憩スペース配置、機材準備) → ③体験(約30~90分(入水支援、休憩を挟みながら実施) → ④撤収(約30~60分、更衣・シャワー誘導、機材洗浄・点検、振り返り共有)」 の流れを確実に踏むことで、安全で再現性の高いバリアフリービーチ運営が可能になります。まずブリーフィングでは、天候や波の状況、危険箇所、参加者の状態、役割分担、緊急時の対応手順などをスタッフ全員で共有し、“全員が同じ前提で動ける状態”をつくります。設営では、護岸から波打ち際直前までアクセスマットを敷き、参加者の動線を確保しつつ、休憩や待機スペースも安全に配置します。体験時は、参加者の障害特性や体調に応じて適切な器具や介助手法を選択し、押し手・左右のサポート・安全監督といった 複数名体制 で支援を行いながら、潮流・波・疲労の程度を常に観察します。撤収では、更衣・シャワー導線を確認しつつ、機材の洗浄・点検・片付けを進め、次回へ向けた改善点を共有します。渕山氏が示した 「段階を踏んで準備し、それぞれの工程で安全を担保する」 という流れは、事業者が今後自然体験型プログラムを設計・運営するうえで、現場にそのまま活かせる実践的な手順となっています。

ブリーフィングの様子
車いすけん引装置 JINRIKIでビーチに降りる様子
参加者が海で楽しんでいる様子

モニターツアーを支えた事業者

【八丈ビューホテル】
東京都・伊豆諸島の八丈島にある高台立地のリゾートホテル。空港から車で約5分とアクセスが良く、八丈富士と太平洋を望む絶景が魅力です。館内は段差の少ない動線設計やエレベーター、手すりの設置、バリアフリー対応客室や多目的トイレなどを備え、車椅子利用者や高齢者、サポートが必要な旅行者にも配慮したアクセシブルな宿泊環境が整えられています。
【八丈島自然ガイドサービスしいのき】
地元の海況・地形・潮流などを熟知し、参加者ごとの体力や不安に合わせて体験レベルを調整するなど、安全管理と自然解説の両面で重要な役割を担いました。自然体験を単なる“海遊び”で終わらせるのではなく、“学びと発見のあるプログラム”として成立させています。
【民間救急フィール】
救急救命士・看護師が対応し、体調管理・緊急時の判断・搬送を担いました。医療従事者が関与することで、参加者・家族の安心感が大きく高まるだけでなく、事業者側もユニバーサル対応におけるリスクマネジメントを実践的に学ぶ機会になりました。また、車いすのまま乗車可能なリフト付きバンを保有し、複数名の同時搬送やグループ対応にも柔軟に対応できる点も特徴です。利用可能台数や乗車人数は事前確認が必要ですが、参加者の状態や規模に応じた移動手段を確保できる体制が整っています。
【連携の意義】
事業者が単独で運営するのではなく、現地の専門ガイド・医療機関・観光事業者が連携することで、高度な安全性と体験価値が生まれます。各事業者の専門性が補完し合うことで、ユニバーサルツーリズムの持続可能性が高まります。

活用した補助器具と使い方(モビマット/モビチェア/JINRIKI)

バリアフリービーチの運営では、以下の3種類の補助器具を活用しました。ワークショップでは、使用する補助器具について、実際の場面を通じて役割と活用方法を確認しました。なお、これらの備品は本土から船舶で搬入しており、離島地域でも機材を計画的に持ち込むことで同様の環境整備が可能であることを示す実践例となりました。
1)アクセスマット モビマット
砂浜などの不整地で車いすが沈み込むのを防ぎ、護岸やスロープ出口から波打ち際手前まで安全に移動できる通路をつくるためのマットで、事前の下見で必要な長さを算定し、砂の堆積をならして連続性を確保することが重要です。今回は2本のモビマットを用意・連結させて設営し、海岸までの導線を確保しました。なお、モビマットは本土から船舶で搬入しており、離島環境でも事前に必要な枚数を想定して運ぶことで、同様のバリアフリー導線を整備できることが確認されました。
2)水陸両用車いす モビチェア
川・ビーチ・湖・プールなど陸上と水上の両方で使用できる水陸両用車いすで、車輪と肘掛けに浮力材を備えているため安定した浮遊力があり、砂浜から海中まで一台でサポートできます。介助者が車いすごと押し進めることで、参加者が海面に浮かぶ体験を安全に楽しめます。使い方のポイントとしては、(1)入水時は複数名体制で支援し、片側に偏らないよう支えを配置すること、(2)潮流・波の状態を必ず確認し、短距離で無理のない範囲で体験を実施することが挙げられます。
3)車いすけん引装置 JINRIKI
通常の車いすにワンタッチで装着できるけん引補助装置で、砂利道・砂浜・坂道など「押す」ことが難しい場面でも、軽い力で前へ引いて進むことができ、移動を安定させる効果があります。
これら3つの補助器具を適切に組み合わせることで、駐車場から砂浜、砂浜から海、そして海中での浮遊に至るまで、参加者の安全を確保しながらスムーズに体験へ導く“バリアフリーな移動・体験導線”を構築できることが実証されました。

アクセスマット モビマット

モビマット

水陸両用車いす モビチェア

モビチェア

車いすけん引装置 JINRIKI

JINRIKI

必要な環境整備のポイント

バリアフリービーチを実施するには、機材だけでなく、環境整備と事前の情報共有が重要です。
・導線の写真、段差の有無、距離、路面状況などをわかりやすく図解 ・参加者が事前に安全性を把握できるよう、ウェブサイト等で情報公開 ・更衣室や日陰・避風スペースの確保、シャワーの水圧・温度の確認など、細かな点を整理して参加者へ案内このような環境整備は、バリアフリー観光の重要な基盤となり、参加者の安心感につながります。

運営の実践(参加者と介助者が共に楽しむ)

導線が整ったら、参加者は介助者とともに波打ち際へ進み、水陸両用車いす(モビチェア)を用いて丁寧に入水します。
入水時は、押し手・左右のサポート・安全監督など複数名体制で、波や潮流を確認しながら慎重にサポート。参加者が浮力で身体の軽さを感じる瞬間は“海を諦めていた方”にとって大きな喜びとなり、介助者にも感動が共有されます。
段階式のプログラムを通じて徐々に自信を高め、スノーケリングに挑戦する参加者も多く、海中を覗き込む体験は「家族に話したい思い出になった」という声が多く聞かれます。

水陸両用車いす(モビチェア)で海に入水している様子
スノーケリングの様子

バリアフリービーチ終了後

体験終了後はモビマットを撤収し、シャワー・更衣をサポートします。底土野営場の更衣室を利用し、安全に移動して着替えを行いました。周囲には車いす対応トイレもあり、体験後の動線が安全に確保されていました。
装備は洗浄・乾燥・点検し、次回実施に備えます。体験直後の参加者の声や表情など、運営改善につながる情報を記録することも大切です。

アクセスマット モビマット撤収の様子
参加者のシャワー・更衣をサポートする様子

参加者の声

参加者からは、「適切な備品と知識があれば安全に海のプログラムを実施できるとわかり、不安が減った」「介助者も一緒に楽しめる体験の価値を実感した」「事前準備や下見、役割分担の重要性が具体的に理解できた」といった声が寄せられました。これらの感想は、今回の体験が“単に海へ入れた”という成果にとどまらず、参加者が安心して挑戦できる環境づくりがいかに重要であるかを示す貴重なフィードバックです。また、介助者が海での体験を参加者と共に楽しめたことは、自然体験が本人にとってだけでなく周囲の人にとっても豊かな時間になることを証明しています。さらに、参加者自身が「準備」や「役割分担」の重要性を体験として理解したことは、バリアフリー観光に関わる事業者にとって大きな示唆となり、施設側・受け入れ側の事前の整備や連携が体験の安全性と満足度を大きく左右することを改めて浮き彫りにしています。こうした声は、今後のプログラム改善や新たなツアー造成に活かすべき“現場からのリアルな学び”として価値が高く、自然体験の場づくりに取り組む事業者にとって非常に重要な示唆となります。

バリアフリービーチ終了後の様子
参加者が感想を話している様子
参加者が感想を話している様子

手配に際しての注意点

事前情報共有(参加者の状況・必要な配慮・連絡体制)、車両手配・待機場所・搬送連携などの移動面の確認、トイレや更衣スペースの事前確認が必要です。募集ページにアクセシビリティ情報を掲載することで参加者の安心につながります。

誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業補助金

バリアフリービーチで使用するアクセスマットや水陸両用車いす、車いすけん引装置などは、東京都の補助金制度を利用して導入することが可能です。初期コストを抑えながら安全性の高い体験を提供でき、自然体験型観光への参入に向けた後押しとなります。
詳細:https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/tourism/kakusyu/nature/

これまで “自分たちには難しい” と感じていた取り組みも、正しい準備と連携があれば実現できることが今回のモニターツアーを通じて明らかになりました。
小さな気づきや学びが、地域の自然をより多くの人に開く大きな一歩につながります。
ぜひ皆さまの事業でも、この変化の芽をそのまま次の挑戦へと育てていってください。

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