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POINT!

山は“見る資源”ではなく、“体験できるフィールド”
山や森は『観賞する風景』ではなく、『自ら歩いて体感するフィールド』です。バリアフリートレッキングは、障害のある方や高齢の方だけでなく、介助者や同行者と同じルートを進み、自然を共有できる取り組みです。
専用機材と適切なサポート体制を整えることで、「山道では車椅子の移動は難しい」という不安を和らげ、誰もが安全に自然の魅力を体験できる旅行商品として展開できます。山道や未舗装路は、障害のある方にとって“危険で近づきにくい場所”と捉えられがちですが、必要な装備と運営手順が整えば、安心して“進める場所”へと変わります。この価値転換こそ、ユニバーサルツーリズムが持つ本質的な力です。
事業者にとっても、“鑑賞”から“参加”へ価値を転換でき、家族や介助者と共に同じ景色を目指す体験価値の提供につながります。新たな顧客層の開拓や商品造成の幅が広がるほか、地域ガイドや交通事業者との連携、受け入れ体制の整備にも寄与するなど、観光事業としての可能性を大きく広げます。
実施時のポイント
・アクセス:車いす利用者が安全に移動できるよう、集合場所からコース入口までの導線を確認します。段差や傾斜、路面(舗装・砂利・土)の状態、待機場所の有無など、安全性と快適性を左右する要因を丁寧に把握します。 ・コース:未舗装区間や勾配、幅の狭い区間、迂回が難しい地点を事前に洗い出します。機材(アウトドア用車いす/けん引装置等)の使い分け、押し手・引き手・横支えの配置など、複数名体制で無理なく通過できる設計にします。 ・休憩・給水:休憩ポイントの位置と間隔を設定し、日陰や風よけになる場所を確保します。水分補給や体温調整がしやすいよう、座れる場所・待機場所を運営フローに組み込みます。 ・トイレ:車いす対応トイレの有無、位置、利用可能性を把握します。入口までの導線、扉の開閉、内部の広さなど、現地で実際に「使える状態か」を確認します。 運用のコツ
導線は「受付→ブリーフィング→機材準備→コース入口→トレッキング→休憩→復路→解散」まで地図化し、段差・斜度・路面状況・狭所の有無を確認します。難所は通過方法を事前に決め、スタッフ間で共有します。当日の気象や路面状況に応じて距離や休憩回数を調整し、こまめに体調確認を行います。無理に進まず、「戻る」「短縮する」といった判断基準を持つことで、安全と体験価値の両立を図ります。

誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業
大島トレッキング体験
ワークショップ&モニターツアー

東京都では、障害者や高齢者等が東京の自然を安心して楽しめる「誰もが楽しめる自然体験型観光」を推進しています。令和7年10月2、3日に伊豆大島で開催した「大島トレッキング体験ワークショップ」では、安全に自然の中を歩く体験を提供するための技術・知識・運営手順について、事業者と参加者が共に学びながら実践的に体験しました。

動画

目 次

大島トレッキング体験ワークショップの概要

参加者は障害のある方とその介助者に加え、旅行会社や自然体験事業者など多様な立場の参加者が集まりました。講師には、ユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋正巳理事長や現地でアウトドアツアーを提供するガイドを迎え、トレッキングにおける支援方法や運営手順を学ぶ1泊2日の研修として実施されました。
会場となった伊豆大島は、東京・竹芝客船ターミナルから高速ジェット船で約1時間45分とアクセスが良く、火山地形ならではのダイナミックな自然景観を有しています。高速ジェット船「セブンアイランド結」には専用シートの設定があり、竹芝においては乗下船時には桟橋側にリフト設備が整備(大島での乗下船は東海汽船スタッフによる支援)されているため、車いす利用者でも比較的スムーズに移動できる環境が整っています。未舗装路や坂道など条件の厳しい環境であっても、補助機材と支援体制を整えることで参加しやすいフィールドとなる点は、高齢者や車いす利用者など移動に配慮が必要な方にとっても重要なポイントとなりました。

モニターツアー参加者の集合写真

【ワークショップ講演】NPO法人ユニバーサルツーリズム総合研究所 長橋 正巳 理事長

長橋理事長は、「誰もが楽しめる自然体験型観光」をテーマに登壇し、障害の有無にかかわらず自然を共有できる旅のあり方と、観光現場で求められる支援や配慮の視点について講義しました。東京都が推進するアクセシブル観光の考え方に触れながら、「自然は誰かのためだけにあるものではなく、風や光、音や香りを誰もが同じように感じられる場所である」と語り、“共に感じる旅”を広げていくことの意義を示しました。
講義では、自身が国内外で携わってきたバリアフリーツアーの事例を紹介。高齢者や障害のある旅行者が支え合いながら自然の中を進んだ体験談を交え、「旅には人を前向きにする力がある」と強調しました。その上で、旅行をためらう背景には「物理」「情報」「制度」「心」の4つのバリアが存在すると指摘し、観光に携わる側がこれらを意識することが第一歩になると説明しました。
さらに、改正障害者差別解消法に触れながら、合理的配慮は特別な対応ではなく、対話を通じて実現していく姿勢が重要であると解説。アウトドア車いすやけん引装置の活用、簡易スロープの設置、バリアフリーマップの作成など、山や自然体験の受入環境整備における具体例も紹介されました。講義の締めくくりでは、「自然体験は心身のリフレッシュだけでなく、自己肯定感や人とのつながりを生み出す“生きる力”につながる」と述べ、共生社会における観光の役割を示しました。

長橋理事長の講義の様子
長橋理事長の写真

学び①:自然体験(アクティビティ)の実施に向けた準備

大島でのトレッキングは、大島町や大島観光協会などが伊豆大島ジオパークの魅力を気軽に味わうことができると紹介する「温泉ホテルルート(大島温泉ホテルから歩いて裏砂漠を目指す)」で設定する方向として、ユニバーサルツーリズムアドバイザー渕山氏と事前に現地視察を実施しました。車いす利用者や視覚障害者が歩行可能であることを確認しました。直前の天候等の事情で水溜まりや石や倒木などの状況により自然路が歩きやすい状態であるか否かも変わることから、前日の夕方にトレッキングを支援する同行者と下見を実施、また当日の早朝にもルートの状況を確認しました。

渕山知弘氏が説明をしている様子
トレッキングコースで車いすをサポートする様子

学び②:当日の運営フロー

大島での当日の運営では、開始前の説明、機材準備、体験実施、終了後の確認という流れを丁寧に踏むことの重要性が共有されました。開始前のブリーフィングでは、天候や風の状況、コース上の注意点、参加者の体調や歩行ペース、スタッフの役割分担、緊急時の連絡方法などを確認し、関係者全員が同じ情報を持った状態でスタートすることが大切とされました。
準備段階では、補助機材の点検や配置、集合場所からコース入口までの導線確認、休憩地点の設定などを行い、無理のない進行ができる環境を整えました。体験中は、参加者の歩行状況や疲労の度合い、足元の状態、風の強さなどを随時確認し、必要に応じてペースを落とす、休憩を挟むといった柔軟な対応を行いました。終了後は、機材の回収や点検、参加者の体調確認を行うとともに、当日の気づきや改善点をスタッフ間で共有しました。
こうした一連の流れは、事業者が今後自然体験型プログラムを設計・運営するうえで、現場にそのまま活かせる実践的な手順となっています。

渕山知弘氏が説明をしている様子
車いすの補助機材を点検する様子

モニターツアーを支えた事業者

【nicomo】
アウトドアや障害のある方の移動支援に特化したモビリティ製品やサービスを提供する事業者で、今回の体験では、参加者の安全な移動をサポートする車いすや補助機材の操作指導、体験導線づくりに深く関わりました。現地スタッフと連携しながら、機材の活用方法や移動のポイントを実際の場面で丁寧に紹介し、参加者・介助者が安心して移動ができ、大島の自然を楽しめるように支えました。
【大島温泉ホテル】
宿泊および集合拠点として参加者の受け入れを担いました。館内には、移動や滞在に配慮したバリアフリー設備が整えられており、参加者が安心して過ごせる環境づくりが行われています。2階客室へは車いす用昇降機を利用してアクセスでき、利用時には館内スタッフがサポートに対応します。1階フロント階には、車いすやベビーカーでも利用しやすい引き戸式の個室トイレを男女それぞれに整備しているほか、ウォシュレット・手すり・オストメイト対応設備・介助用ベッド・ベビーベッドを備えた専用のバリアフリートイレも設置されています。
【大島椿】
伊豆大島の自然とともに歩んできた椿油専門メーカーです。「椿守カンパニー」として、椿と椿油から生まれる文化を守り、育て、後世へ受け継ぐ活動に取り組んでいます。大島椿製油所では、誰もが大島の観光を楽しめるようにと、福祉車両(後席サイドムービング仕様)、電動アシスト付きオフロード用車いす、電動アシスト付きアウトドア用介助型車いす、シャワーキャリーの貸し出しに対応しています。
本モニターツアーでは、電動式アウトドア用車いす(後述するマウンテントライク社のeトライクとeプッシュ)を貸し出しいただき、現地での受入を支えました。
【大島旅客自動車(大島バス)】
伊豆大島内で乗合バス・定期観光バス・貸切バスを運行するバス事業者です。島内の移動を支える交通事業者として、島民の地域の足としてまた来訪者の観光の足として機能しています。路線バスとして中扉のスロープから車いすやベビーカー乗降可能で社内に車いす及びベビーカースペースを確保する車両を保有しています。今回のモニターツアーでは、路線用ノンステップバスを貸切利用しました。同様の利用を希望する場合は、事前のリクエストが必要です。
【連携の意義】
大島での自然体験プログラムでは、地域企業と交通事業者が関わることで、安全性と実現性が高まりました。大島椿による場づくりと、大島旅客自動車による移動支援が組み合わさることで、参加者は移動から体験まで安心して臨める環境が整いました。それぞれの専門性を生かした連携は、体験の質を高めるだけでなく、ユニバーサルツーリズムを継続的に実施していくための重要な基盤となります。

活用した補助器具と使い方(HIPPOcampe/JINRIKI/eトライク/eプッシュ)

大島でのトレッキング体験では、自然地形に対応するため、複数の補助器具を組み合わせて活用しました。ワークショップでは、それぞれの役割や使い方を実地で確認し、参加者の移動や体験をどのように支えるかを共有しました。
1)アウトドア用車いす HIPPOcampe
砂利道や火山礫、未舗装路などの不整地でも走行できるアウトドア用車いすで、河原や山道といった通常の車いすでは進みにくい場所での移動を可能にします。使用時は事前にルートを下見し、傾斜や段差、狭所の有無を確認したうえで、押し手と補助者を複数配置し、前後左右のバランスを保ちながら進行することが重要です。
2)車いすけん引装置(JINRIKI)
通常の車いすに装着することで、押す力だけでなく“引く力”を活用できる補助装置です。砂利道や緩やかな上り坂など、前方へ進む負荷が大きい場面で有効で、移動時の安定性を高めます。取り付け手順を事前に確認し、横や後方で支える人員を配置することで安全性が向上します。
3)電動アシスト付きオフロード用車いす eトライク
イギリスのマウンテントライク社による自走式の電動アシスト付きオフロード用車いす、森の中のトレイルや、町の散策、公園の散歩など行動範囲は飛躍的に広がります。ユニークなレバーシステムで走行性も優れており、坂道の上りや自然路などで必要に応じて電動アシストを利用することができます。
4)電動アシスト付きアウトドア用介助型車いす eプッシュ
イギリスのマウンテントライク社による電動アシスト付きアウトドア用介助型車いす、基本的に介助者が文字通りに押すスタイルで使用するモデルであり、電動モーターによるアシストを利用することであまり力のない方でも容易に様々な路面に対応することができます。
これらの補助器具を適切に組み合わせることで、集合場所からコース入口、自然地形の中での移動や滞在に至るまで、参加者の安全を確保しながらスムーズに体験へ導く“バリアフリーな移動・体験導線”を構築できることが確認されました。

アウトドア用車いす(HIPPOcampe)

HIPPOcampe

車いすけん引装置(JINRIKI)

JINRIKI

電動アシスト付きオフロード用車いす eトライク

eトライク(左)/eプッシュ(右)

電動アシスト付きオフロード用車いす eプッシュ

eプッシュ

必要な環境整備のポイント

大島でのトレッキング体験を実施するには、補助機材の準備だけでなく、環境整備と事前の情報共有が重要です。
・コースまでの導線、傾斜や段差の有無、距離、路面状況などを分かりやすく整理 ・障害者の安全を担保できるように支援者による安全性と難易度把握のための事前確認が肝要 ・日陰や休憩できる場所、風を避けられるポイント、トイレや待機場所の位置などを事前に確認し案内 こうした環境整備は、自然体験を安心して選択できる基盤となり、参加者の不安軽減と満足度向上につながります。

運営の実践(参加者と介助者が共に楽しむ)

導線と準備が整ったら、参加者は介助者やスタッフとともにコース入口へ進み、アウトドア用車いすや補助機材を活用しながら無理のないペースで歩行を開始します。移動時は、前後左右に補助者を配置し、足元の火山礫や傾斜、風の強さなどを確認しながら慎重に進行しました。
当日は、宿泊先である大島温泉ホテルで全行程の説明や緊急時に使える基本的な手話を伝えるなど準備・ブリーフィングに約20分、出発から折り返し地点まで約40〜60分、途中の休憩や景観ポイントでの滞在を挟み、復路を含めて全体で約2時間程度を目安に進行しました。天候や火山風の強さ、参加者の体調に応じて歩行距離や休憩回数を調整し、無理のないペースで実施されました。
自然の中で立ち止まり、景色や風、地面の感触を感じる時間は、「自分にも歩けた」という実感につながり、参加者と介助者の双方に共有される印象的な場面となりました。段階的に距離や難易度を調整しながら進めることで、短い散策から本格的なトレッキングへ挑戦する参加者も見られ、山頂や展望地点からの景色を眺める体験は、「ここまで来られたことが自信になった」といった声につながりました。

トレッキングコースで車いすをサポートする様子
トレッキングコースで車いすをサポートする様子
トレッキングコースで車いすをサポートする様子

トレッキング体験終了後

体験終了後は、使用した補助機材の回収と点検を行い、参加者の体調や疲労の有無を確認しながら集合場所へ戻りました。必要に応じて休憩の時間を設け、事前に確認していたトイレや待機スペースを活用することで、体験後の動線が安全に保たれました。
機材は清掃・整備を行い、次回の実施に備えます。また、体験直後の参加者の感想や表情、スタッフ間での気づきなどを共有・記録することが、今後の運営改善やプログラムの質の向上につながります。

参加者の声

参加者からは、「車いすの娘と一緒に参加したが、あの道を登れるとは思わなかった」「山登りは無理だと思っていたが、車いすでもできると実感した」「同じ景色を一緒に見られたことが何より嬉しかった」といった声が寄せられました。また、「地域でフィールド化を進めたい」「仲間とネットワークを築ける良い機会だった」といった今後の活動につながる意見のほか、「車いすの活用が災害時にも役立つと感じた」といった実務への活用を見据えた発言も聞かれました。
参加者が、適切な準備のもと機材の使い方や役割分担、コース設定の重要性を体験として理解したことは、旅行会社や地域の観光事業者、自然体験ガイドなど、現場で受入を担う人々にとっても大きな気づきとなりました。さらに、「母と妹が一緒に参加し、普段見られない笑顔を見ることができた」という感想に加え、「支援される側・する側というより、同じ時間を共に過ごした仲間という感覚だった」という声が上がるなど、本人以外にも家族や周囲の関係性にも前向きな変化を生みました。このような現場の実感は、今後のプログラムづくりや受入体制を考える上での確かな手がかりとして共有されました。

参加者が感想を話している様子
参加者が感想を話している様子
参加者が感想を話している様子
参加者が感想を話している様子

手配に際しての注意点

参加者の状態や必要な配慮、当日の連絡体制などの事前情報共有を徹底することが重要です。あわせて、島内での移動手段の手配や待機場所の確保、行程に合わせた運用計画を立てるなど、移動面の調整も欠かせません。さらに、当日はこまめな体調確認やスタッフ間の役割分担を行い、「無理をしない」「状況に応じて引き返す」といった安全管理の判断基準を共有しておくことが、安心して自然体験を実施するためのポイントとなります。

車いすで乗船する際のサポートの様子
車いすでバスに乗車する際のサポートの様子

誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業補助金

トレッキングや自然体験で使用するアウトドア用車いすやけん引装置などの備品は、東京都の補助金制度を活用して導入することが可能です。初期負担を抑えながら安全性と受入体制を高めることができ、自然体験型観光への参入や商品造成を後押しする仕組みとなっています。
詳細: https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/tourism/kakusyu/nature/

今回のワークショップを通じて、これまでハードルが高いと感じられていた取り組みも、準備の積み重ねと地域の協力によって現実的な選択肢へと変えていけることが見えてきました。現場で得られた小さな気づきや実践の積み重ねは、地域の自然をより多くの人に開いていく確かな力になります。
ぜひ皆さまの事業においても、この経験を次の一歩へとつなげ、新たな挑戦として発展させていってください。

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